運転適性検査オールD
18歳のおーるD 車学校で運転適性検査を受けた時の実際の判定だ。
「お前、運転するな」
そういわれているような気がした。
運転免許には、オートマ(AT)とマニュアル(MT)の二種類がある。
オートマはギアの操作を自動で行ってくれるため、運転が比較的簡単で初心者向きとされている。一方、マニュアルは自分でクラッチとギアを操作する必要があり、操作が複雑だがエンストや発進の感覚など、車を“操る”技術が身に付く。
私自身はマニュアル車を運転することはないが、父に「男ならマニュアルを取るべき」と言われ、マニュアルの取得を目指すコースを選んだ。
学校の授業と同じように、運転の練習回数もある程度決められていたが、余りにも下手すぎて、他の人より5つほど多く受けた。
運転教員は物凄く厳しく、毎回怒鳴られていた。それもそのはず。私は何をするにしても人よりも何倍も苦労する特性がある。
普通の人のように、一度の指示で頭に入ってこない。教えられたこともすぐに抜けてしまう。
注意点を意識すればするほど頭が真っ白になり、ハンドル操作やミラー確認など、すべてが遅れてしまう。
さらに、少しでもミスをするとすぐに焦ってしまい、視界が狭くなり、前を見ることしかできなくなる。
周囲の状況や標識、他の車の動きに気を配る余裕など一切なくなってしまうのだ。
そもそも、運転を始める前から、私は自分が運転に向いていないことを痛感していた。正直、運転すれば、いつか死亡事故を起こしかねない──そんな恐怖すらあった。
けれど、ここは電車やバスが豊富な東京とは違う。車は、生活していく上での足そのものだ。それに……車がなければ、もし彼女ができても、どこにもデートに行けない。そんな焦りもあった。
向いていないと分かっていても、必要だから。涙を流しながら必死に食らいついた。
その教員のことを悪く言うつもりはない。交通事故は、人の人生を一瞬で壊す可能性がある。だからこそ、教え方が厳しくなるのは当然だ。
とはいえ、運転教員にとって、私のように要領の悪い生徒はきっとストレスだったのだろう。イライラしたのも、怖さを感じたのも分かる。
怒鳴られるのも仕方がないとは思っていた。でも、その怒声に委縮してしまい、ますます動きが固くなって、結果的に運転がさらに下手になってしまう──そんな悪循環に陥っていた。
そんな私だが、この記事を書いている時点で27歳。運転歴は約6年になる。
ありがたいことに、これまで無事故・無違反で、ゴールド免許を取得している。
運転は物凄い下手で、友達から走る棺桶と言われていたが、工夫と経験を重ねることで、ここまでやってこれた。
というわけでここからは、ADHDである私が、心がけてきた「事故を防ぐための方法」をご紹介していきたいと思う。
方法① 運転以外の事はしない
運転中は、運転のみに集中することだ。例外はない。スマホでLINEの返信なんて、言語道断だ。
仮に電話がかかってきたとしても、出てはいけない。たとえ運転に慣れていてもだ。実際、私も運転中に電話が来たことがある。車のBluetooth(ブルートゥース)を通して会話をした。携帯には触っていなかった。
だが、通話が終わり、電話を切るためにボタンを押した──その一瞬、目を離した瞬間、目の前にガードレールがあった。
とっさにハンドルを切って回避したが、もう一歩遅れていたら、衝突事故を起こしていただろう。
この様に、ただでさえ少ない注意力が何か運転以外の事をすればより少なくなってしまう。
もし電話に出なければならない状況であれば、車を路肩に寄せて停車させてから応答すること──これを徹底する。今でも私は、それを必ず守っている。
また、運転中に物を取り出したくなることもある。たとえば、飲み物や忘れ物などだ。それも、絶対にしてはいけない。これはADHDに限った話ではなく、誰にでも起こりうる。
気を取られた一瞬が、衝突事故につながることは実際によくある。
ただし、ある程度運転に慣れてくると、これらの行動を条件付きで行うこともある。それは「赤信号で確実に停車している時」だ。
私は、ブレーキを限界までしっかり踏み込み、確実に停車していることを確認してから、運転以外の動作を行うようにしている。
停車中であれば、交通事故はまず起こらない。
ただし、後続車の邪魔にならないように、信号の変化には細かく注意を払うことが大切だ。
青信号なのに進んでいない車を見ると私でも腹が立つ。
このような行動は、最低でも1年以上運転に慣れてから取り入れたほうがいいだろう。後ろの車に迷惑をかけたくないと思うのであれば、なおさらだ。
方法② 危険予知トレーニングをする
このJAFの公式YouTubeチャンネルには、「危険予知トレーニング」の動画がある。
https://youtube.com/@jafchannel?si=Zh26ft5ewwjP9FAP
運転者の視点から始まり、「このあと、どんな交通事故が起こりうるか?」を予測する形式だ。
その後、実際に事故が起きた場合の対応や、たとえば「踏切で車が止まってしまったときはどうすべきか」といった具体的な対処法も解説されている。
どの動画も、非常に現実的だ。
中には「どう考えても相手に非がある」「これは防げないだろう」と思うようなケースも出てくる。
しかし、それを“含めて”現実なのだと教えてくれる内容になっている。
障害の有無に関係なく、運転しているすべての人が一度は見るべきだと、私は思う。
こうした知識を「知っているか/知らないか」だけで、反応や判断は大きく変わってくる。
実際、私自身も、この動画に何度も助けられてきた。
方法③ 急な行動をしない
たとえば運転中、前の車が何らかの理由で突然停車することがある。運転がうまい人なら、サイドミラーで後方を確認し、スムーズに車線変更できるかもしれない。でも、私はそうはしていない。
私は、とっさの行動が苦手だ。だから、一動作ずつ順番に確認しながら運転している。
具体的には──
- ①前の車が停車する
- ②自分も車を止めなければと判断して停車
- ③右車線に行くには時間がかかりそうだと判断
- ④そこで初めてサイドミラーを確認
- ⑤安全を確認してから、ゆっくり車線変更
……こんなふうに、段階的に動いている。
もし私が、うまい人の真似をして即座に車線変更しようとすれば、焦って確認不足になり、事故につながる可能性が高い。
このように私は、急な行動を避けて、一つ一つの動作を確実に行うようにしている。
ADHD/ASDの特性上、急な環境の変化や即時の判断にはとても弱い。
今回のように、スムーズに車線変更しようとすれば、それだけ「急な判断」が求められる。
しかし、運転中にカッコよさやスムーズさを求めなければ、急な判断を避けることはできる。
仮に予想外のことが起きたとしても、ブレーキを踏めばたいていのことは防げる。よほどスピードを出していなければ、事故にはならない。
要するに、大事なのは「急な行動をしないこと」と、「予想外の事態が起きたら、まずブレーキを踏むこと」。それが、私にとっての安全運転の基本だ。
方法④ 恥を捨てろ
運転歴は約6年──改めて言う。
それでも、私はいまだに縦列駐車が苦手だ。何度も切り返して修正することがある。「絶対に隣の車にぶつけたくない」という気持ちが強くて、そのぶん慎重になりすぎてしまうのだ。
友達に馬鹿にされることもよくあるが、
何が悪い! 隣にぶつけるよりは、遥かにマシだ!
と思っている。
他にも、右折のタイミングを逃してしまって、後続車を待たせることもよくある。
だけど、そうした“下手さ”よりも、何よりも大切なのは──交通事故を起こさないこと。
運転をしていれば、恥ずかしい場面や焦る状況には必ず遭遇する。
「焦らないことが一番」とはよく言われるが、実際のところ、それは無理だ。
だからこそ、焦ってしまった時には、必ずこの一言を自分に言い聞かせるようにしている。
「今、自分は焦っている。だからこそ、落ち着いて。安全を最優先に動こう」
いつもより過剰ぐらいに前後左右を確認し、ゆっくりすすむこと。
他の自動車にクラクションを鳴らされても気にしないことだ。
方法⑤ 車間距離を開ける
私は、車間距離を必ず2台分くらい空けるようにしている。
空けすぎだと思われることもある。実際、友達の車について走っていたときなど、その間に別の車が入ってこられることもよくある。それでも、私はあえて車間距離を開けている。
先ほども述べた通り、私はとっさの判断が苦手だ。
もし車間距離を詰めすぎていた場合、前の車が急に停車したとき、とっさにブレーキを踏まなければならない場面が出てくる。
そうなると、反応が間に合わず、事故につながる可能性が高くなる。
だからこそ、私は常に「余裕をもって止まれる距離」を確保するようにしている。
実際に、運転に慣れてくると、バックミラーで後ろの車がピッタリ車間を詰めてきているのが見えることがある。
「そんなに詰めて大丈夫か?」と不安になる。
焦っているのか、煽っているのか分からないが、気になるようなら道を譲って先に行かせるのが一番だ。
たとえ相手の方が悪かったとしても、事故を起こしてしまえばこちらも無傷では済まない。
だから私は、回避できる場面では躊躇せず、避ける選択をする。安全が何よりも優先だからだ。
方法⑥ 目的地が分からない場合
私は方向音痴で、たとえ地元であっても、少し慣れない道に入ると迷ってしまうことがある。
そんな私が取っている対策は、とにかくナビの指示どおりに運転することだ。たとえ遠回りだと感じても、自分の判断を挟まず、ナビに従う。これが一番安全だと思っている。
ただ、それでも問題はある。目的地の近くまで来ても、実際に「どこが目的地なのか」が運転中だと分からないことがあるのだ。運転しながら建物や看板を探そうとすると、注意が散漫になり、事故のリスクが一気に高くなる。
そこで、私が実際にやっているのは、いったん車を停めて確認すること。近くの駐車場や、安全な路肩を見つけて停車し、そこから歩いて探す。焦ってハンドルを握ったまま探すより、ずっと安全で確実だ。
とはいえ、ナビが目的地到着と判断した時点で案内が終了してしまい、「どこに停めたらいいのかすら分からない」こともある。
私はよく目的地を通り過ぎてから、何度も同じ道を往復して確認している。
でも、それでいいと思っている。一番大切なのは、焦らず、安全を最優先に行動することだからだ。
最も重要なこと
ここまで読んで頂きありがとうございます。
これまでいろいろ語ってきましたが──
最後に最も重要なことを言います。事故を起こさないために、一番大事なことです。
それは……運です。
はっきり言います。私がゴールド免許でいられるのは、運が良かったからです。これまでお伝えしてきた方法をすべて意識してきましたが、それでも防げない要素は存在します。
たとえば、「うっかり」「思い込み」「勘違い」。ADHD/ASDの特性上、どうしてもこうしたミスは起きやすい。
運転に不慣れだったころ、私もうっかり赤信号を無視して突っ切ってしまったことがあります。「左折専用」の車線を直進してしまったこともありました。どちらも、一歩間違えれば重大事故につながっていたでしょう。
でも、たまたま運が良くて事故にならなかった。そのあと、しっかり反省して、同じミスは繰り返さないようにしました。
ちなみに、方法②で紹介した「危険予知トレーニング」の動画についても、私は最近までYouTubeにあることを知りませんでした。教習所でいくつか例を見ただけで、それっきりだったのです。
ですが、よく考えてみてください。交通事故というのは、偶然の重なり合いで起こるものです。
たとえば──
- 時速70キロで運転中、前方には車。車間距離も十分に空けてある。
- そんなとき、携帯に通知が来た。気になって一瞬だけ目を離す。
- その一方で、前の車の前に動物が飛び出して、急ブレーキを踏んだ。
- 自分はその停車に気づかず、そのまま追突事故を起こしてしまった。
こうして見てみると:
- 通知が来る
- 気になって目を逸らす
- 前方の車がたまたま急停車する
この三つの偶然が、同時に起こる確率は極めて低い。
ですが、ゼロではありません。
この事例では「携帯を見なければ防げた」と言えるかもしれません。
では、他のケースでは? 危険予知トレーニングをどれだけ頭に叩き込んだとしても……運転中ずっと完璧に警戒し続けられる人なんて、まずいません。
少なくとも、私は無理です。
実際、ある調査によると、1年間に交通事故に遭う確率は約0.245%〜1%とされています。
つまり、完全に防ぐのは不可能に近いです。
それでも──事故の「確率」は下げることができます。
そのためには、今回紹介したような工夫を心がけ、そして、もしミスをしてしまったら、必ず反省し、次に同じことを繰り返さないようにすること。
それこそが、事故を防ぐ最善の道だと私は思います。